ここ数年、スタートアップ熱は過熱を続けています。国内だけでも人材や資金など膨大なリソースがスタートアップ市場に集まってきています。

昨年11月に開催されたTech Crunch Tokyo 2016に登壇したインキュベイトファンドの村田祐介氏は、2016年のVCファンドの組成額は3,500億円近くに上ると予測。リーマンショック後最大の資金がスタートアップ市場に流れると語っています。

人的リソースを用いたスタートアップ支援も注目を集めています。大手企業を母体としたものを含め、様々なアクセラレータが登場し、領域や事業形態に合わせた様々な形で支援を展開しています。

そのなかで、『起業家支援コミュニティ』と銘打ち、ほかのアクセラレータとは異なる支援を行っているのが『Supernova(スーパーノヴァ)』です。今回は、同コミュニティを運営するスパノバ株式会社Co-Founder & Director (Community Producer)の栗島祐介さんにSupernovaの仕組みと、コミュニティに基づくスタートアップ支援の形についてお話を伺いました。

起業家支援コミュニティ「Supernova」の6つの特徴

Supernovaは、栗島さんが代表を務めたViling Venture PartnersをはじめとしたVCや事業会社が共同でスタートしたシードアクセラレータ。投資家とのマッチングやナレッジの共有、デモデイやメンタリングの開催、R&D機能の提供等を行っています。

ちょうど17年1月末に行われた第2回目のデモデイでは、人工衛星との通信サービス実現しようとする『Infostellar』や、統合失調症の診断キットを開発する『RESVO』などが登壇し表彰されていました。他にも、製造業における工場向け間接材比較販売プラットフォームを提供する『Aperza』など、成長の期待される企業たちが支援先に名を連ねています。

はじめに、栗島さんにスパノバが取り組む『起業家支援コミュニティ』とはそもそも何なのか。従来のアクセラレータプログラムとの違いについて伺いました。

「Supernovaは起業家にとっての『インフラ』を目指しています。投資家と起業家双方を見ていると、その間には多くのミスマッチがある。起業家は、投資家がたくさんいることを知らず偏った情報に流され、投資家側も、開発にリソースを割くべき時期にメンタリングを重ねさせるようなあまりイケていない支援していたりする。これを解決できないかと考えたのがSupernovaです。

起業家と投資家のミスマッチなど、栗島さんが現状の起業家支援を分析した上で生み出されたSupernova。この分析の中で、栗島さんは以下の6つの仮説を立て、起業家支援コミュニティを構築していきます。

  1. ビジネス化に時間のかかりそうな領域(HardTech領域)特化
  2. 新しい技術シードの発掘ではなく、枯れた技術の水平思考が主軸
  3. ハンズオフ支援をベースとした個別最適化
  4. ビジネスモデルではなくビジネス領域の拡張性と人の可能性に賭ける
  5. プログラムではなくコミュニティ(=卒業概念がない)
  6. 運営母体がファンドを保有せず、Startup Firstかつ中立性を維持

この6つはいずれも、現在のアクセラレータプログラムや、スタートアップ支援で一般的とされる形とは異なる「逆張り」の仮説だと栗島さんは語ります。

「まず特徴的なのが『HardTech(ハードテック)』という領域に特化している点です。ハードテックは造語で、ハードウェアのハードではなく、困難な領域という意味での「ハード」です。我々は、時間がかかり挑みたくないと考えられる困難な領域ほど、競合が少ないブルーオーシャンがたくさん残されているのではないかと考え、そこに特化しようと考えました」

そして、このハードテックへの特化を裏付けるのが、2つ目の仮説です。

「ハードテックの領域では、新しい技術シーズの発掘ではなく、枯れた技術の水平思考が重要になってきます。これは、技術革新によって景気循環が50年周期で起こるという「コンドラチェフの波」という概念に基づきます。技術革新の周期のなかで、前半は新しい技術の登場によってインフラが作られる時期です。ITの場合、このフェーズはもう終わっており、Fin TechやHealth Techといった●●Techの台頭が示すように、いまは枯れた技術を用いて遅れている領域を再構築する時代なのです。その再構築する領域がハードテックというわけです」

しかし、いままで技術革新が行われてこず、産業構造や市場が複雑化しているハードテック領域で枯れた技術の水平思考を行うのは容易ではありません。そこで、4つ目の特徴であるビジネス領域の拡張性と人の可能性に賭けるという仮説が生まれてきます。

「困難な領域ほど市場や産業構造は複雑になっており、外から見てビジネスモデルの善し悪しを判断するのは非常に難しい。とりあえずやってみて、気づきを得て、領域内で横展開し、大きなビジネスの可能性を見つけられる。そんな人や領域がSupernovaが支援する対象としては望ましいと考えています」

ここまでの3つの仮説で支援対象を定め、残りの3つの仮説でSupernovaの特徴である、コミュニティでの支援が導き出されます。

「プログラムの場合、一定期間で卒業するため、生まれるのは横の繋がりのみで、縦の繋がりが生まれにくい。つまり先人のノウハウを得づらいのです。コミュニティにすることで、コミュニティ内にノウハウを蓄積し、他企業や先輩の知見や経験から学ぶことができる。結果的に、より成長角度を高められるのです。

ただし、縦の交流をスタートアップに強いることはしません。優秀な起業家ほど、自立・自発的な行動で結果を生み出します。我々はあくまで自発的に行動しようとした起業家をサポートするだけ。ハンズオフの支援を行います。起業家に必要と言われたリソースを提供する。機会は提供しますが、選ぶのは起業家です。

そして、Supernova自体はファンド化せず中立性な立場を維持します。ファンド化すれば利益は稼げますが、利益を追うことが結果的にスタートアップのためにならない可能性もあります。利害を超えてスタートアップを支援するためにも、現状ファンド機能は持たない形での支援を中心に据えています」

プログラムの限界から生まれたコミュニティモデル

これら6つの逆張りの仮説に基づいて構築された、Supernova。栗島さんがコミュニティに基づくスタートアップ支援という1つの解にたどり着いたのは、前職の教育系アクセラレータでのプログラム型支援に限界を感じたからだといいます。

「前職のアクセラレータでは、教育という特定の領域に特化したプログラムであるにも関わらず、卒業した人と後から入った人の交流がほぼ生まれなかったんです。起業家は自分たちの事業の成長が第一にあり、わざわざ来て教えることになかなか時間を割けない。しかし、学校や部活動を思い出してみると、我々は先輩に教えてもらいながら、実践することで成長してきました。プログラムは起業家を横一列に並べて成長させますが、本来はステージの異なる人が存在し、繋がりを持つことで知見やノウハウを共有できる設計であることが理想なのではないかと考えたのです」

Supernovaのように領域を特定せずハードテックに挑む場合、期間を限定して卒業させる従来の方法が成立しづらいという課題もあるといいます。

「我々が設定したハードテックの領域では製造や金融、創薬といったライフサイクルの全く異なるものが存在します。こういった製造や設計のサイクルやプロダクトに必要なリソース量が明らかに違うものを、無理矢理数ヶ月のプログラムに入れ込むのは無理なんです。そう考えると、彼らが必要なタイミングで必要なリソースを常に提供してあげるのがベストなんです」

起業家の自立・自発を前提とするコミュニティ作り

異なる分野に注力する人を、1つのコミュニティとしてまとめ上げるのは容易ではありません。Supernovaはどのような形でまとめ上げる仕組みを用意しているのか、栗島さんは以下のように語ります。

「どんなコミュニティでも同様ですが、放っておくだけではコミュニティ内での関係性は生まれません。コミュニティの参加者には、ある程度の共通項が必要なってくる。Supernovaの場合、運営側が参加者にとっての共通項になります。運営がそれぞれの企業や人、文脈を理解して相互に関係を持つことにメリットがあるであろう人を繋げてあげるプロデューサー的役割を果たしています」

運営が役割を果たす上で、Supernovaが大切にしていることは何か。栗島さんは「自立、自発、これに尽きる」といいます。

「自立・自発的に思考と行動ができることが圧倒的に重要です。基本、運営はスタートアップファーストの姿勢ですから、起業家には自ら行動を次々と起こしていってもらいたいと考えています。我々としては月一でデモデイを開催したり、メンタリングを用意したりはします。もちろん、来てくれればその場で繋げたりもしますが、すべて任意参加です。事業のフェーズや、起業家のマインドがオープンかクローズかなど、その時々の状況に応じ、必要なときに必要なものを提供します」

コミュニティの参加者に対して、運営側は必要に応じた支援を行い、自主性を重んじることがわかりました。コミュニティに参加する側は、Supernovaからどのようなメリットを得るのでしょうか。栗島さんは参加することによるメリットを、以下のように考えていると語ります。

「無論、運営側としてはリソースを提供し続けるだけではなく、いつかは起業家から還元してほしいと思っています。ただ一般的なプログラムに比べSupernovaが大きく異なるのが時間軸です。5年、10年で還元してくれればいいと考えています。5年後に成功してエンジェルとして戻ってくるか、失敗してまた再挑戦するために戻ってくるでも構いません。ファンド化していないのもここに関係していて、投資してしまうと明確に金銭的なリターンが必要になる。ファンド機能を持たないことが、中長期的な視野で企業を見ることを可能にするのです」

人を重視するからこそ、重要になる参加者のスクリーニング

仕組みと同様にコミュニティを運営していく上で重要になるのが、スクリーニングーーつまり参加者の選別です。参加者はコミュニティの一部であり、Supernovaの支援を通じて共に成長を目指すパートナーでもあります。コミュニティの構成要素でもあり、Supernovaの場合、併走するパートナーともなる。栗島さんはスクリーニングのプロセス、選別の基準を以下のように語ります。

「プロセスとしては、書類選考の後ほぼ100%直接会って判断しています。個別で面談した後に、共同運営社4社の前でピッチと質疑をします。そこで参加の可否を判断し、あとはどういう段階で入れるかを決める流れです。ここでチェックするのはビジネスモデルではなく、その人のひととなり。自立・自発で結果を出せる人か、Supernovaに合うか否かの視点で判断します。」

ビジネス的に成功しそうかどうかだけではなく、コミュニティにとって最適な人であるかという点も見逃せません。ここは栗島さんも毎度悩むところだといいます。

「コミュニティに合うタイプの人がビジネス的に成功する人かというと、必ずしもイコールではありません。コミュニティを活性化させてくれるタイプの人は大丈夫なのですが、まれに消費者的な人、コミュニティをうまく利用してやろうという人がいるんです。消費的な人がいることでコミュニティの熱量が奪われていき、独立された瞬間コミュニティから大きな火が抜けてしまう。ただこのタイプの人は、成功する確度が高いことも多く、どのようにバランスを取るか、難しいところでもあります」

ペイフォワードで仮説を検証する

6つの逆張りの仮説に基づく、ハードテック分野へのフォーカスと、コミュニティの基づいたハンズオフ支援。これらSupernovaが展開する支援を通し、栗島さんは1つの経済圏を展開したいと考えていると語ります。

「ビジネスの発展のためにつながる以上、経済圏を作り、相互に価値を提供し合えないとコミュニティは崩壊します。だから我々は、参加している人たちの経済活動に沿うようなコミュニティを作りました。投資家側からすれば、ディールソーシングをうちが勝手にやってくれていて、スクリーニングをかけ、勝手に育て上げて繋いでくれる。

起業家からすれば大きくなろうとしたときに、Supernovaを仲介すれば事業フェーズに対して適切な投資家がどこにいるかを把握でき、紹介までしてくれる。起業家と投資家をつなぐ経済的合理性を持ったエコシステムを構築し、コミュニティに基づいたアクセラレータ機能を提供していくよう、強く意識しています」

最後に、Supernovaの今後について栗島さんは以下のように締めくくってくれました。

「まずは、この6つの逆張りの仮説を明らかにしなければいけません。我々が仮説の中で主に狙うハードテックの領域は非常に大きなマーケットを持っています。BtoBのGDPを見ると、ITは2割しかなく、残りの8割は非ITのハードテックに成り得る領域です。この仮説が上手くいけば、非常に大きな価値を社会に還元できる。実際、徐々に結果が出はじめていて、中にはユニコーンを越えるのではないかと言われる企業も存在しています。いまはまだペイフォワードでひたすらリソースを投入し、仮説通りの結果につながるかを検証している段階です。Supernovaで成長してくれたスタートアップが、投入したリソースの何倍にもなって戻ってくることを楽しみにしています」

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株式会社サイル 代表取締役社長・栗原康太より

サイルは自らを「プロフェッショナルコミュニティサービス」と定義しています。また、提携する全国60以上のコワーキングスペース・協会の中には自らを“コミュニティ”と定義しているところが多数あります。コミュニティのあり方はそれぞれですが、私も「自立・自発に基づく、個別最適化」こそがコミュニティメンバーをサポートする最高の方法だと信じ、そうした思想でサービスを作っているので、今回の取材で刺激をたくさんもらいました。メンバーの自主性を大事にしたいと考える人たちにとって、Supernovaの視点や仕組みはコミュニティ運営に大きなヒントを与えてくれるのではないでしょうか。


サイルでは今後も先進的な個人やチーム、コミュニティをご紹介していく予定です。随時Facebookページでお伝えしていきますので、ぜひご覧ください。